意味とカタチをつなぐデザイン Aug Labの場合
私がパナソニックに勤めていた頃、人間拡張技術を研究する組織「Aug Lab」の発足にあたり、ロゴマークをデザインしました。
Aug Labは、ロボット技術の研究開発を行う部署を母体とする組織です。ロボット技術を考えるとき、置き去りにされがちな人間の存在を、あらためて開発の中心に据え、当時注目されていたウェルビーイングに貢献することを目指していました。
人間拡張を、どうロゴに落とし込むか。まず最初に思い浮かぶのは、人のシルエットをモチーフにすることです。もちろん、そのような案も複数検討しましたが、直接的で何か大事なことが伝わってないような気がしました。さまざまなアイデアを考えるなかで、人間拡張技術が「身体能力の拡張」と「認知能力の拡張」に分けられることが、ひとつの手がかりになりました。
日本語では、身体を「五体」、知覚を「五感」と表すことがあります。言語によってこの通りではないと思いますが、どちらにも共通する「五」という数字は、日本の組織にとって意味を持たせやすいと考えました。
Aug Labが目指すのは、ウェルビーイングです。専門的な定義は割愛しますが、要は幸福な状態を指します。幸福を図形で表すとき、笑顔やハートマークがまず思い浮かびます。ほかにも表現はあると思いますが、私は先ほどの「五」と結びつけ、五芒星をモチーフにできるのではと考えました。人間拡張技術によって、一人ひとりの人間がギャップを乗り越え活躍し、「輝く」ことができる、その象徴としての星というモチーフです。
そこで、五体と五感を表す五角形の頂点をそれぞれ伸ばし、全体として星印に見えるマークを考案しました。
色には、幸福感や活力を感じさせるオレンジを選びました。ロゴタイプはテック感を残しながらも柔らかな印象になるようなゴシック体で構成しました。
幸い、類似するマークは見当たらず、このデザインはロゴマークとして無事に採用されました。
ここで私が学んだのは、デザインの説明可能性の大事さです。この案以外にも無数のアイデアを検討していました。しかし、この案ほど明確に組織のビジョンを体現し、由来を語れるデザインはありませんでした。
よくデザインは感性の仕事と言われることがありますが、大きな組織で合意形成をしたり、上層部に説明したりする際には、その内容に対する納得感や説明可能性が非常に重要になります。そうでなければ、みんながなんとなく良いと思う無難なものに収斂していくか声の大きい人の好みに引きずられていくことでしょう。もちろん着想や表現のディテールなど感性に基づく調整は必要です。しかし、デザインにロジックがあるからこそ、みんなが安心してそれを選ぶことができます。これもデザイナーにとって大事な仕事だと思います。
ただなんとなくカッコいいデザインは、今となってはAIで大量に作ることができます。それらにそれらしい説明をAIに語らせることも簡単です。
しかし、本当に意味のあるカタチをつくるには、課題に真摯に向き合う姿勢、試行錯誤の時間、その結果として辿り着ける感性とロジックの高度な融合が必要であると実感したプロジェクトでした。
